歯列矯正治療を終えて、美しい歯並びを手に入れたにもかかわらず、「以前よりもほうれい線が目立つようになった」と感じる方がいます。これは非常に残念な気持ちになることでしょう。矯正治療が直接ほうれい線を深くするわけではありませんが、いくつかの間接的な要因によって、ほうれい線が目立ちやすくなることがあります。その主な原因を探ってみましょう。最も考えられる原因の一つは、「口元のボリュームダウン」です。特に抜歯を伴う矯正治療で、前歯を大きく後退させた場合(例えば、いわゆる口ゴボの改善など)、口元の突出感が解消され、横顔のEラインは美しく整います。しかし、その一方で、これまで前方に張り出していた口唇やその周囲の軟組織が内側に引っ込むため、頬の皮膚にわずかな「余り」が生じることがあります。この皮膚の余りが、ほうれい線の部分で影を作ったり、たるみとして認識されたりして、ほうれい線が目立つように感じられるのです。例えるなら、風船の空気が少し抜けた時に表面にしわが寄るのに似ています。次に、「頬の筋肉の衰えや脂肪の減少」も大きな要因です。矯正治療中は、装置の違和感や痛みから、食事の際に口を大きく動かさなくなったり、柔らかいものを好んで食べるようになったりする傾向があります。これにより、頬や口周りの筋肉(表情筋)の活動量が減少し、筋力が低下してしまうことがあります。筋肉のハリが失われると、皮膚を支える力が弱まり、たるみが生じやすくなってほうれい線が目立ってきます。また、矯正治療中のストレスや食事量の変化によって顔の脂肪が減少し、頬がこけてしまった場合も、ほうれい線が深く見える原因となります。頬のふくらみが失われることで、ほうれい線の溝がより強調されてしまうのです。さらに、「治療期間中の加齢」も無視できない要素です。歯列矯正治療は、一般的に1年から3年程度の期間を要します。その間に誰しも年齢を重ね、肌の弾力やハリは自然と失われていきます。コラーゲンやエラスチンの減少は、ほうれい線が目立つようになる直接的な原因であり、矯正治療のタイミングと加齢による変化が重なることで、「矯正のせいでほうれい線が深くなった」と感じてしまうことがあります。これらの原因は、単独で作用することもあれば、複合的に影響し合っていることもあります。もし気になる場合は、まずは担当の歯科医師に相談してみることが大切です。