歯列矯正は多くのメリットをもたらす治療法ですが、全ての人に適しているわけではありません。場合によっては、矯正治療を見送るべき、あるいは慎重に検討すべきケースも存在します。無理な矯正治療は、かえって口腔内の健康を損ねたり、期待した結果が得られなかったりするリスクを伴うため、注意が必要です。まず、重度の歯周病にかかっている場合は、原則として歯列矯正治療はできません。歯周病は歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてしまう病気であり、その状態で歯に矯正力を加えると、歯が抜け落ちてしまう危険性があります。歯列矯正を希望する場合は、まず歯周病の治療を徹底的に行い、歯周組織が健康な状態に回復してから、改めて矯正治療の可否を判断する必要があります。また、顎関節に重篤な症状がある場合も、慎重な判断が求められます。顎関節症の症状(痛み、開口障害など)が強い状態で矯正治療を開始すると、症状が悪化する可能性があります。この場合も、まずは顎関節症の治療を優先し、症状が安定してから矯正治療を検討するのが一般的です。さらに、コントロール不良の全身疾患(例えば、重度の糖尿病や骨粗しょう症など)を抱えている場合も、歯の移動や治癒に影響が出る可能性があるため、矯正治療が困難な場合があります。必ず主治医と矯正歯科医が連携を取り、治療の可否を慎重に判断する必要があります。成長期のお子さんの場合、まだ顎の成長が完了していない段階で、最終的な歯並びを確定させるような治療を行うのは適切でない場合があります。成長段階に合わせた適切な時期と治療法を選択することが重要であり、場合によっては成長が落ち着くまで治療の開始を見送ることもあります。そして、患者さん自身が矯正治療の必要性を感じていない、あるいは治療への協力が得られないと判断される場合も、無理強いすることは避けるべきです。歯列矯正は長期間にわたる治療であり、毎日の丁寧な歯磨きや、定期的な通院、リテーナーの装着など、患者さんの積極的な協力が不可欠です。本人の意思がないまま治療を進めても、良好な結果を得ることは難しいでしょう。これらのケースに該当する場合は、歯科医師と十分に話し合い、リスクとベネフィットを天秤にかけ、本当に矯正治療が必要なのか、他の選択肢はないのか、といった点を多角的に検討することが大切です。
無理な矯正は禁物!治療を見送るべきケースとは