歯列矯正治療が、全てのいびきを魔法のように治せるわけではありません。しかし、特定の歯並びや噛み合わせの問題が、いびきの主な原因となっている場合には、歯列矯正がいびきの改善に大きく貢献する可能性があります。では、どのようなケースで、歯列矯正によるいびき改善が期待できるのでしょうか。まず、最も代表的なのは、「下顎が小さい、または後退している(下顎後退症、小下顎症)」ケースです。下顎が小さいと、舌が口腔内に収まるスペースも狭くなりがちです。そのため、仰向けで寝ると、舌の付け根(舌根)が喉の奥に落ち込みやすく(舌根沈下)、気道を狭めていびきを引き起こします。歯列矯正治療、特に成長期のお子さんであれば顎の成長を促すような治療や、成人であれば下顎を前方に誘導するような装置を用いた治療、あるいは外科手術を伴う矯正治療などによって、下顎の位置や大きさが改善されると、舌が正しい位置に収まりやすくなり、気道が確保されていびきが軽減されることが期待できます。次に、「歯列のアーチが狭い」ケースです。歯が並ぶためのアーチ(歯列弓)が狭いと、やはり舌のスペースが不足し、舌根沈下を起こしやすくなります。歯列矯正によって歯列のアーチを側方に拡大するような治療を行うと、舌房(舌が収まる空間)が広がり、舌が喉の奥に落ち込みにくくなるため、いびきの改善が見込めます。また、「著しい上顎前突(出っ歯)や開咬(前歯が閉じない状態)」のケースも、いびきと関連していることがあります。これらの不正咬合では、口が自然に閉じにくく、無意識のうちに口呼吸になっていることが多いです。口呼吸は、口腔内を乾燥させ、喉の粘膜の炎症や舌の沈下を引き起こし、いびきの原因となります。歯列矯正によって歯並びが整い、唇が自然に閉じやすくなって鼻呼吸が促されると、いびきが改善される可能性があります。さらに、「噛み合わせが不安定で、睡眠中に顎が後退しやすい」ケースも、歯列矯正が有効な場合があります。安定した噛み合わせを得ることで、睡眠中の顎の位置が安定し、気道の狭窄を防ぐ効果が期待できます。これらのケースに該当する場合でも、いびきの原因は複合的であることが多いため、歯列矯正だけで完全に治るとは限りません。
いびき改善が期待できる歯列矯正のケースとは?