「では、これから右上の奥歯のところに、スクリューを埋めていきますね」。歯科医師のその言葉に、私の心臓はドクンと大きく跳ね上がりました。口の中にネジを埋め込むなんて、想像しただけで失神しそうです。歯列矯正の中でも、これが最大の難関だと、私は覚悟を決めていました。まず、麻酔の注射。チクッとした痛みはありましたが、これは歯の治療で何度も経験しているもの。数分もすると、頬から歯茎にかけての感覚が、じんわりと鈍くなっていくのが分かりました。先生が、「じゃあ、始めますよ。少し押される感じと、振動がありますからね」と声をかけてくれます。目をぎゅっとつむり、治療用の椅子のアームを力いっぱい握りしめました。ウィーンという、ゆっくりとしたドリルのような音が聞こえ、頬の上から押さえつけられるような圧迫感を感じます。痛みは、全くありません。麻酔が効いているので当然ですが、それよりも「今、私の骨に穴が開けられているんだ」という想像が、恐怖心を煽ります。ゴリゴリ、というよりは、キュルキュルというような、何かがねじ込まれていく感覚。時間は、ほんの数分だったと思います。あっという間に、「はい、終わりましたよ」という先生の声が聞こえました。恐る恐る目を開けると、先生の手には血のついた器具も何もなく、まるで何事もなかったかのようでした。舌でそっと触れてみると、頬の内側の歯茎に、小さくて丸い金属の頭があるのが分かりました。これが、これから私の歯を動かすためのパートナーになるスクリューか、と少し感慨深い気持ちに。麻酔が切れた後も、心配していたような激しい痛みはなく、処方された痛み止めを1回飲んだだけで済みました。数日間は、頬に指を当てると少し痛む程度の違和感がありましたが、日常生活に支障はありませんでした。私の体験から言えるのは、スクリューの埋入は「怖い」という気持ちとの戦いであって、「痛い」という心配はほとんどいらない、ということです。