歯列矯正治療における「痛み」は、多くの方が懸念する点であり、できれば痛みの少ない方法を選びたいと考えるのは自然なことです。近年、歯科医療技術は目覚ましく進歩しており、より患者さんの負担を軽減するための様々な工夫が凝らされた矯正法や装置が登場しています。では、比較的痛みが少ないとされる歯列矯正法にはどのようなものがあるのでしょうか。まず、「セルフライゲーションブラケット」と呼ばれるタイプのブラケットシステムです。従来のブラケットは、ワイヤーをゴムや細い針金で強く結び付けて固定していましたが、セルフライゲーションブラケットは、ブラケット自体にワイヤーを保持するためのシャッターやクリップのような機構が備わっています。これにより、ワイヤーとブラケット間の摩擦が大幅に軽減され、より弱い力で効率的に歯を動かすことが可能になります。弱い力で歯を動かすということは、歯根膜にかかる負担も少なくなり、結果として痛みが軽減されると期待されています。次に、「マウスピース型矯正装置」も、比較的痛みが少ないとされる矯正法の一つです。透明なマウスピースを段階的に交換していくことで歯を動かす方法で、一度に歯を動かす量が比較的少ないことや、ワイヤー矯正のように装置が粘膜に直接強く当たることが少ないため、痛みや口内炎のリスクが低いと言われています。ただし、新しいマウスピースに交換した直後には、やはり歯が押されるような圧迫感や軽い痛みを感じることはあります。また、歯の移動様式によっては、アタッチメントと呼ばれる小さな突起を歯の表面につける必要があり、これが粘膜に当たって痛みを生じることもあります。さらに、治療計画の段階で、コンピュータシミュレーションを用いて歯の動きを精密にコントロールし、無理のない力で歯を移動させるように計画することも、痛みの軽減に繋がります。また、歯科医師の技術や経験も、痛みの感じ方には大きく影響します。患者さん一人ひとりの歯の状態や感受性に合わせて、適切な力を加え、きめ細やかな調整を行うことができる歯科医師を選ぶことも重要です。ただし、どんな矯正法を選択したとしても、歯が動く際にはある程度の違和感や痛みが生じる可能性はあります。「全く痛くない矯正」というのは現実的には難しいかもしれませんが、最新の技術や工夫によって、その負担は以前に比べて格段に軽減されてきています。
痛みの少ない歯列矯正法はある?最新技術と選択肢