歯列矯正治療中の痛みは、患者さんにとって大きな関心事であり、不安の原因ともなります。この痛みを効果的にコントロールし、治療をスムーズに進めるためには、患者さんと矯正歯科医との間の良好なコミュニケーションが不可欠です。そして、そのコミュニケーションをより円滑にし、的確な診断や処置に繋げるために役立つのが、「痛みの記録」です。具体的には、いつ(例えば、装置調整後何日目、朝昼晩など)、どこが(特定の歯、歯茎、粘膜など)、どのように(ズキズキ、ジンジン、締め付けられるような、など)、どの程度の強さで(10段階評価などで)痛むのか、そして、鎮痛剤を服用したか、服用した場合の効果はどうだったか、といった情報をメモしておくのです。矯正装置の種類によっては、食事の際に痛みを感じやすい、会話中に装置が擦れるといった特有の状況も記録しておくと良いでしょう。この「痛みの記録」は、次回の調整日に歯科医師に伝える際に、非常に役立ちます。口頭だけで「痛かったです」と伝えるよりも、具体的な記録に基づいて説明することで、歯科医師は患者さんの状態をより正確に把握することができます。例えば、「調整後2日目の夜に、右下の奥歯がズキズキと10段階中7くらいの強さで痛み、鎮痛剤を飲んだら3時間ほどで楽になりました」といった具体的な情報は、矯正力が適切であったか、あるいは強すぎたか、特定の歯に問題が生じている可能性はないか、といったことを判断する上での重要な手がかりとなります。また、痛みが長引いている場合や、いつもと違う種類の痛みを感じる場合なども、記録があればその変化を客観的に示すことができます。これにより、単なる歯の移動に伴う痛みなのか、それとも何らかのトラブル(虫歯、歯周病、装置の不具合など)が生じているのかを早期に発見し、適切な対処をすることにも繋がります。さらに、患者さん自身にとっても、痛みのパターンや周期を把握することで、「この時期は痛くなりやすいから、柔らかい食事を用意しておこう」「そろそろ痛みが和らぐ頃だ」といった予測ができ、精神的な安心感を得ることにも繋がるかもしれません。矯正治療は長期間にわたるため、歯科医師との信頼関係を築き、何でも気軽に相談できる雰囲気を作ることが大切です。「痛みの記録」は、そのための有効なコミュニケーションツールの一つと言えるでしょう。
痛みの記録が役立つ?矯正歯科医とのコミュニケーション術