歯列矯正を始めたら、あるいは終えた後に、「なんだかほうれい線が目立つようになった気がする…」と感じる方がいらっしゃいます。美しい歯並びを手に入れるための治療が、なぜエイジングサインとも言われるほうれい線と結びついてしまうのでしょうか。この噂の真相と、考えられるメカニズムについて解説します。まず、大前提として、歯列矯正治療が直接的にほうれい線を作り出す、あるいは深くするという医学的な根拠は確立されていません。ほうれい線は、頬の皮膚や皮下組織のたるみ、表情筋の衰え、コラーゲンやエラスチンの減少などが主な原因で形成されるものであり、歯の動きそのものが直接作用するわけではないのです。しかし、それにもかかわらず、なぜ「歯列矯正でほうれい線ができた」と感じる人がいるのでしょうか。いくつかの間接的な要因が考えられます。一つは、抜歯を伴う矯正治療による口元の変化です。特に、上下の小臼歯などを抜歯して前歯を大きく後退させるような治療を行った場合、口元の突出感が解消される一方で、これまで口元のボリュームによって支えられていた頬の皮膚や軟組織が、わずかに内側に落ち込むような形になることがあります。この時、元々あったほうれい線の影が、口元のボリュームダウンによって相対的に目立ちやすくなる、あるいは新たな影として認識されやすくなる可能性があります。次に、矯正治療中の顔の筋肉の使い方の変化や、一時的な頬こけも影響していると考えられます。矯正装置の違和感や痛みから、食事の際にあまり口を大きく開けなくなったり、柔らかいものばかり食べるようになったりすると、頬周りの筋肉(特に口輪筋や頬筋など)の活動量が低下し、筋力が衰えることがあります。筋肉のハリが失われると、皮膚を支える力が弱まり、たるみが生じやすくなるため、ほうれい線が目立ってくる可能性があります。また、食事量の減少などにより顔の脂肪が減少し、頬がこけて見える場合も、ほうれい線が深く見える一因となります。さらに、年齢的な要因も無視できません。歯列矯正治療は数ヶ月から数年にわたるため、治療期間中に加齢が進み、自然な老化現象としてほうれい線が目立ってくるタイミングと重なることもあります。これらの要因が複合的に絡み合い、「歯列矯正がほうれい線を作った」という印象に繋がっているのかもしれません。