あれは忘れもしない、歯列矯正の装置を初めて装着した日のこと。鏡に映る自分の口元に、キラリと光る金属のブラケットとワイヤー。これから始まる長い矯正生活に胸を躍らせていたのも束の間、数時間後には口の中に異変を感じ始めました。最初はチクチクとした小さな痛み。それが徐々に、食事をするのも億劫になるほどの鋭い痛みに変わっていったのです。犯人は、そう、憎き口内炎でした。特に下の歯につけたブラケットの角が、内頬の粘膜に見事に食い込み、瞬く間に真っ赤な炎症と白い潰瘍を作り上げていました。歯科医院でもらった矯正用ワックスを必死で丸めて貼り付けるものの、食事をすれば取れてしまい、喋っているうちにズレてしまう。夜、寝ている間にワックスが取れてしまい、朝にはさらに悪化した口内炎とご対面、なんてことも日常茶飯事でした。毎月の調整日もまた、口内炎との新たな戦いの始まりを意味していました。ワイヤーが新しくなったり、締め付けが強くなったりすると、これまでとは違う場所に装置が当たり始め、新たな口内炎が「こんにちは」と顔を出すのです。そのたびに、私は薬局に走り、様々な種類の口内炎治療薬を試しました。塗るタイプ、貼るタイプ、スプレータイプ…。まるで口内炎治療薬のソムリエにでもなれそうなくらい詳しくなりました。食事も、刺激の少ないうどんやおかゆ、ゼリー飲料などが主食となり、大好きだった唐揚げやカレーはしばらくお預け。友人とのおしゃべりも、口を開けるのが辛くて控えめになりがちでした。そんな地獄のような日々の中で、私なりに見つけ出した対処法は、まず「諦めない心」。そして、ワックスをとにかくこまめに、丁寧に、広範囲に貼ること。食事の後は必ずうがいをして口の中を清潔に保つこと。そして、痛みに耐えられない時は無理せず痛み止めを飲むこと。何よりも、歯科医師や歯科衛生士さんに正直に辛さを伝え、相談することでした。彼らはプロですから、ワイヤーの端を丸めてくれたり、効果的なワックスの付け方を教えてくれたり、時にはレーザー治療で口内炎の治癒を早めてくれたりもしました。長い矯正期間を経て、今ではすっかり口内炎ともおさらばしましたが、あの痛みと戦った日々は、美しい歯並びを手に入れるための試練だったのだと、今では少しだけ笑って振り返ることができます。
矯正中の口内炎地獄と生還の記録