歯列矯正治療において、ワイヤーをブラケットにしっかりと固定することは、計画通りに歯を動かし、治療を成功させるために非常に重要です。このワイヤーの固定方法にはいくつかの種類があり、それぞれに特徴や強度、そしてワイヤーが外れるリスクも異なります。主なワイヤーの固定方法について見ていきましょう。まず、最も伝統的で広く用いられているのが、「エラスティックリガチャー(モジュール)」と呼ばれる小さなゴム製のリングでワイヤーをブラケットに結紮(けっさつ:縛り付けること)する方法です。このゴムリングは様々な色があり、毎月の調整時に交換するため、カラフルなゴムを選んでおしゃれを楽しむこともできます。強度的には、比較的しっかりとワイヤーを保持できますが、ゴムの性質上、時間とともに劣化したり、食べ物の色素で着色したり、あるいは稀に切れてしまったりすることがあります。ゴムが緩んだり切れたりすると、ワイヤーの保持力が弱まり、外れやすくなる可能性があります。次に、「リガチャーワイヤー(結紮線)」と呼ばれる細い金属製のワイヤーで、矯正ワイヤーをブラケットに直接縛り付ける方法です。エラスティックリガチャーよりも強力にワイヤーを固定でき、緩みにくいというメリットがあります。特に、歯を大きく動かす必要がある場合や、確実な固定が求められる場合に使用されることが多いです。ただし、金属製のワイヤーの端が頬や唇の粘膜に当たって口内炎の原因になることがあるため、歯科医師による丁寧な処理が必要です。そして、近年注目されているのが、「セルフライゲーションブラケット」です。これは、ブラケット自体にシャッターやクリップのような開閉式の蓋がついており、その蓋を閉じることでワイヤーをブラケット内に保持する仕組みになっています。従来のゴムや結紮線を使用しないため、ワイヤーとブラケット間の摩擦が少なく、より弱い力で効率的に歯を動かせると言われています。また、ゴムの劣化や結紮線の緩みといった問題が起こりにくいため、ワイヤーが外れるリスクも比較的低いと考えられます。ただし、ブラケット自体の構造がやや複雑で、他のブラケットに比べてサイズが大きくなる傾向があるなどの特徴もあります。どの固定方法を選択するかは、患者さんの歯並びの状態、治療計画、そして歯科医師の治療方針によって決まります。