歯列矯正治療において、美しい口元、そして美しい横顔の指標の一つとしてよく用いられるのが「Eライン(エステティックライン)」です。Eラインとは、鼻の先端(鼻尖:びせん)と顎の先端(オトガイ部)を直線で結んだラインのことで、このラインの内側に上下の唇がやや触れるか、あるいはわずかに内側に入っている状態が、美しい横顔のバランスとされています。そして、このEラインと鼻の下(人中)の長さや形状は、密接に関連しており、顔全体の調和を考える上で非常に重要なポイントとなります。例えば、口元が前方に突出している、いわゆる出っ歯や口ゴボの状態では、Eラインよりも唇が大きく前に出てしまい、バランスが悪く見えます。このような場合、歯列矯正(多くは抜歯を伴う)によって前歯部を後退させ、口元をEラインの内側に収めることで、理想的な横顔のプロファイルに近づけることができます。そして、この口元の後退に伴って、前方に押し出されていた上唇が内側に収まり、鼻の下の皮膚の緊張が緩和されることで、鼻の下がすっきりとして短く見える効果が期待できるのです。つまり、Eラインが整うことと、鼻の下の印象が改善されることは、多くの場合、連動していると言えます。また、Eラインを評価する際には、鼻の高さや顎の突出度も重要な要素となります。歯列矯正で直接的に鼻の形や顎の骨格を変えることはできませんが、口元が引っ込むことで相対的に鼻が高く見えたり、下顎が後退気味だった方が前方へ誘導されることで顎のラインがはっきりしたりすると、Eライン全体のバランスが向上し、それに伴って鼻の下の印象もより調和の取れたものになる可能性があります。ただし、理想的なEラインや鼻の下の長さというのは、あくまで一般的な基準であり、個々の骨格や顔のパーツのバランス、そして何よりもご本人の好みによって、美しいと感じるバランスは異なります。無理にEラインの内側に唇を収めようとして過度に口元を後退させると、かえって貧相な印象になったり、ほうれい線が目立ったりする可能性も否定できません。大切なのは、画一的な美しさを目指すのではなく、ご自身の顔立ちの個性を活かしつつ、機能的にも審美的にも最もバランスの取れた状態を、歯科医師と十分に話し合いながら見つけていくことです。歯列矯正は、単に歯を並べるだけでなく、鼻の下を含めた顔全体の調和を追求する治療でもあるのです。