「歯並びは個性の一つだから、無理に治す必要はない」という考え方があります。確かに、全ての人が完璧に整った歯並びを目指す必要はありませんし、多少の歯並びの乱れがその人のチャームポイントになっていることだってあるでしょう。しかし、その「個性」が、実は口腔機能や健康に悪影響を及ぼしているとしたらどうでしょうか。歯列矯正の必要性を判断する際には、単に見た目の美醜だけでなく、いくつかの医学的な基準を考慮に入れる必要があります。まず、最も重要な基準は「噛み合わせ(咬合)」です。上下の歯が正しく噛み合っているか、特定の歯に過度な負担がかかっていないか、顎の動きはスムーズか、といった点が評価されます。例えば、奥歯でしっかり噛めない、前歯で食べ物を噛み切れない、顎がカクカク鳴る、口が開きにくいといった症状がある場合は、噛み合わせに問題がある可能性が高く、歯列矯正を検討する理由となり得ます。次に、「清掃性」です。歯が重なり合っていたり、複雑に傾いていたりすると、歯ブラシが届きにくく、プラーク(細菌の塊)が溜まりやすくなります。これは虫歯や歯周病の大きなリスクファクターとなります。どんなに丁寧に歯磨きをしても磨き残しが多い場合は、歯並び自体が清掃性を妨げている可能性があり、矯正によって改善が期待できます。また、「発音」への影響も考慮すべき点です。特に、開咬(奥歯で噛んでも前歯が閉じない状態)やすきっ歯(空隙歯列)などは、息が漏れやすく、サ行やタ行などの発音が不明瞭になることがあります。コミュニケーションに支障を感じる場合は、矯正治療が有効な場合があります。さらに、「顎関節への負担」も重要な判断基準です。不正咬合は、顎関節に不自然な力を加え、顎関節症を引き起こす原因となることがあります。顎の痛みや開口障害、頭痛、肩こりといった症状がある場合、噛み合わせの改善を目的とした歯列矯正が検討されることがあります。そして、もちろん「審美性」も無視できません。歯並びに対するコンプレックスが強く、人前で笑うことをためらったり、口元を手で隠したりするような場合は、精神的な負担を軽減し、QOL(生活の質)を向上させるために、歯列矯正が有効な手段となり得ます。これらの基準を総合的に判断し、歯科医師とよく相談した上で、ご自身にとって歯列矯正が必要かどうかを決定することが大切です。
歯並びは個性?矯正の必要性を判断する基準