「歯列矯正には抜歯がつきもの」というイメージは、もはや過去のものとなりつつあります。その大きなきっかけとなったのが、「歯科矯正用アンカースクリュー」の登場です。この小さなネジが、これまで抜歯でしか得られなかった「スペース」を、全く新しい方法で作り出すことを可能にしたのです。なぜ、矯正治療で抜歯が必要になるのでしょうか。その最大の理由は、歯が綺麗に並ぶためのスペースが、顎の骨の上に不足しているからです。小さな駐車場に、無理やり多くの車を詰め込もうとすれば、はみ出したり、曲がって停めたりするしかないのと同じです。抜歯は、この駐車場から車を数台どかして、他の車が綺麗に停められるスペースを作る行為に例えられます。では、スクリューを用いた非抜歯矯正は、どのようにしてスペースを生み出すのでしょうか。その鍵は、「歯列の遠心移動(後方移動)」というテクニックにあります。奥歯の後方の歯茎の骨にスクリューを埋め込み、それを絶対的な固定源として、歯列全体を後方へ、つまり奥の方へ引っ張っていくのです。これにより、前歯の部分に、ガタガタを解消するためのスペースが生まれます。これは、駐車場の奥の壁を壊して、駐車場そのものを後方に拡張するようなイメージです。この治療法により、これまで「スペース不足」を理由に抜歯が必須と診断されていたようなケースでも、健康な歯を一本も抜くことなく、美しい歯並びを手に入れられる可能性が大きく広がりました。ただし、この後方移動ができるスペースには個人差があり、親知らずの状態や、顎の骨の大きさなどによって限界があります。全ての症例で非抜歯が可能になるわけではありませんが、スクリューは、「歯を抜きたくない」と願う多くの人々にとって、希望の光となる画期的な選択肢を提供してくれたのです。まずは専門医による精密な検査を受け、ご自身の状態がスクリューによる非抜歯矯正の適応となるか、相談してみることが重要です。