マウスピース矯正は、その目立たなさと取り外せる利便性から、多くの人に選ばれている歯列矯正方法です。しかし、この「取り外せる」というメリットが、実は最大の落とし穴ともなり得るのです。なぜなら、マウスピース矯正の成功は、患者さん自身の徹底した自己管理にかかっているからです。歯科医師から指示されたマウスピースの1日の装着時間は、通常20時間から22時間程度。これは、食事と歯磨きの時間以外は、基本的にずっと装着していなければならない計算になります。この装着時間を守れなければ、歯は計画通りに動かず、治療期間が大幅に延びてしまったり、最悪の場合、期待したような治療効果が得られなかったりする可能性があります。例えば、「今日は友人と食事だから、少し長めに外しておこう」「ちょっとくらいなら大丈夫だろう」といった小さな油断の積み重ねが、治療計画に大きな狂いを生じさせることがあるのです。また、マウスピースは数週間ごとに新しいものに交換していくことで歯を動かしますが、交換のタイミングを間違えたり、紛失してしまったりすると、これもまた治療の遅延に繋がります。特に、マウスピースを外した際にティッシュにくるんで置いておき、誤って捨ててしまった、というケースは後を絶ちません。紛失した場合、新しいマウスピースが届くまで治療が中断してしまうこともありますし、再製作には追加の費用がかかることもあります。さらに、食事の後は必ず歯を磨いてからマウスピースを再装着するというルールも、徹底するには根気が必要です。食べカスが残ったままマウスピースを装着すると、虫歯や歯周病のリスクが高まりますし、マウスピース自体も不衛生になり、口臭の原因にもなりかねません。このように、マウスピース矯正は、患者さん自身の強い意志と規律正しい生活習慣が求められる治療法です。もし、自分はズボラな性格だ、あるいは生活が不規則で自己管理に自信がない、という方は、安易にマウスピース矯正を選択するのではなく、固定式のワイヤー矯正など、他の選択肢も視野に入れて歯科医師とよく相談することをおすすめします。手軽に見えるマウスピース矯正ですが、その裏には「自己責任」という重い言葉が隠れていることを忘れてはいけません。
自己管理が鍵!マウスピース矯正の落とし穴とは