本日は、歯列矯正専門医の田中先生(仮名)に、近年関心が高まっている「上顎のみの歯列矯正」について、その実態や注意点などを伺います。まず、上の歯だけの矯正を希望される患者さんは増えているのでしょうか。はい、特に成人の方を中心に、上の前歯の見た目を気にされて「上の歯だけを治したい」というご相談は増えています。結婚式などのライフイベントを控えている方や、できるだけ短期間で、費用を抑えて治療したいというニーズがあるように感じます。具体的に、どのような症例であれば上顎のみの矯正が適応可能なのでしょうか。基本的には、下の歯並びや噛み合わせに大きな問題がなく、かつ上顎の歯の移動だけで審美的な改善と安定した噛み合わせが得られると判断される場合です。例えば、上の前歯に軽度の隙間がある、少しだけ捻じれている、わずかに出っ張っているといったケースが挙げられます。ただし、これはあくまで一般論であり、個々の患者様の骨格や歯の状態、噛み合わせのバランスを総合的に診断した上で判断する必要があります。逆に、上顎のみの矯正が難しい、あるいは推奨できないケースとはどのようなものでしょうか。下の歯並びにも問題がある場合や、上下の顎の骨格的なズレが大きい場合(例えば重度の出っ歯や受け口)、奥歯の噛み合わせが不安定な場合などは、上顎のみの治療では根本的な解決にならず、かえって全体のバランスを崩してしまう可能性があります。また、見た目だけを優先して無理に上の歯だけを動かすと、将来的に歯や顎関節に負担がかかることも懸念されます。治療を検討する上で、患者さんが最も注意すべき点は何でしょうか。まず、安易に「上の歯だけ」と決めつけないことです。必ず複数の専門医の意見を聞き、精密検査に基づいた診断を受けることが重要です。そして、治療のメリットだけでなく、デメリットやリスク、限界についてもしっかりと説明を受け、十分に理解・納得した上で治療を選択することです。特に噛み合わせへの影響は慎重に評価する必要があります。部分的な矯正だから簡単、安価というイメージだけで飛びつかず、長期的な視点で口腔全体の健康を考えた治療計画を立ててくれる歯科医師を選ぶことが肝心です。田中先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。
歯科専門医に聞く!上顎のみの歯列矯正の実態